二子玉川駅周辺の不動産投資市況

東急田園都市線の中間に位置し、「二子玉川ライズ」などの再開発で「都心」並の施設が揃う郊外のニューモデルとしての地位を確立しつつある二子玉川周辺の不動産市況について解説します。


セレブが集うハイセンスな街、二子玉川

渋谷駅から東急田園都市線で約11分、自由が丘駅から東急大井町線で約10分の場所にあるのが二子玉川駅。駅の北側では国道246号線と環状八号線が交差、道路交通も便利です。
多摩川を渡れば川崎市という、郊外エリアながらも交通至便な二子玉川駅周辺の街(以下、二子玉川)は「ニコタマ」の愛称で親しまれ、「多摩川沿いの落ち着いたハイセンスな街」として知られています。

二子玉川は、1909年(明治42年)の「玉川遊園地」開園をきっかけに行楽地として発展した街です。大正から昭和初期にかけて多摩川での観光鮎漁が人気を集め、川沿いに料亭や割烹旅館が軒を連ねていたといわれています。
この街が行楽地から高級住宅地へ変わり、さらに商業地としての顔も持ち、「二子玉川」という街ブランドを確立した背景には、次のような経緯があったとされています。

まず、二子玉川の風光明媚でのどかな立地に着目した政財界人が昭和初期に多摩川を望む瀬田地区の高台に邸宅や別荘を構えたのが高級住宅地形成のきっかけでした。
次に1969年、郊外型ショッピングセンターの草分けといわれる「玉川高島屋ショッピングセンター」が開業し、商業地として発展するきっかけになりました。

当時の百貨店は都心部商業地の一等地に出店するのが店舗開発の常識でした。その時代に高島屋はモータリゼーション時代の到来を予見し、自家用車でやってくる買い物客向けの店舗開発を業界に先駆けて二子玉川で行ったといわれています。
当時、業界内で「あんな辺鄙な場所に百貨店を作って客が来るのか」と不思議がられたそうですが、高島屋の狙いは成城や田園調布に住んでいる富裕層でした。当時、自家用車は庶民層にまだ普及していませんでしたが、富裕層には普及していました。そこで高島屋は二子玉川に百貨店を開業すれば、成城や田園調布の富裕層は都心部の銀座・京橋より近い二子玉川へ自家用車で買い物に来るだろうともくろんだといわれます。
高島屋のもくろみは当たり、玉川高島屋ショッピングセンターは成城や田園調布の富裕層の女性買い物客で繁盛しました。以降、同ショッピングセンターの周りに彼女たち目当ての高級婦人服店、高級雑貨店、高級インテリアショップ、カフェなどが軒を連ねるようになり、それに伴い二子玉川のイメージが「辺鄙な田舎の街」から「セレブが集うハイセンスな街」に変わっていきました。

一方、二子玉川駅西北部に足を向けると、昭和初期に政財界人の邸宅や別荘地となった瀬田地区に到着します。至る所で木々がうっそうと茂るこの住宅地には、三菱財閥の岩崎弥之助・小弥太親子の邸宅を公園として一般開放した「岡本静嘉堂緑地」、昭和初期の実業家・小坂順造邸を一般開放した「旧小坂家住宅・瀬田四丁目広場」などの庭園スポットもあり、四季の移ろいを感じられる散歩コースともなっています。

住みたい街から働きたい街へ

二子玉川は長らく玉川高島屋ショッピングセンターが街のランドマークになっていましたが、2015年春から同センターと並ぶランドマークとなったのが、「二子玉川東地区再開発事業」で生まれた「二子玉川ライズ」です。
二子玉川ライズは1982年から2015年まで約30年の歳月をかけて開発された複合施設。民間の手による都市再開発事業としては都内最大規模を誇ります。総開発面積は約11.2ha。3つの街区と約6.3haの二子玉川公園で構成され、多様性のあるエリアになっています。
3つの街区の中ほどを「リボンストリート」が貫き、二子玉川駅と二子玉川公園をつないでいます。「Ⅰ街区」は二子玉川駅を中心に様々な人と情報が集まる商業・業務施設の集積エリア、「Ⅱ街区」は商業・業務施設に加え文化や情報の発信拠点となる中心的エリア、「Ⅲ街区」は隣接する二子玉川公園の豊かな自然環境が感じられる住宅エリアになっています。住宅エリアには5棟のマンションがほどよい距離感で点在。診療所、調剤薬局、保育園、雑貨店、レストラン・カフェなどが入居した「二子玉川ライズプラザモール」も併設されています。

Ⅰ街区の「二子玉川ライズショッピングセンター」にはカルチュア・コンビニエンス・クラブの新業態「二子玉川蔦屋家電」、スペイン王室御用達の老舗グルメストア「マヨルカ」、DIYに関するツール販売やワークショップを随時開催する「DIYファクトリー 二子玉川」、マカラシナモンを包んだ生地にクリームチーズフロスティングをかけた「シナボンクラシック」が看板商品のベーカリーカフェ「シナボン/シアトルズベストコーヒー」など、話題の店が続々と出店しています。
また、同ショッピングセンター向かいの「二子玉川ライズオフィス」(30階建て)には品川から本社を移転した「楽天」が入居。ショッピングセンターと合わせⅠ街区は約1万人が就労する「働く街」ともなっています。

二子玉川ライズ開発を主導した東急電鉄は、同施設開発の狙いを「二子玉川はこれから『住みたい街』から『働きたい街』へ発展してゆく。二子玉川ライズをその拠点にしたい」と説明しています。働きたい街になることでより多くの人が往来し、二子玉川全体がさらに活性化していきます。

ファミリー向け賃貸マンション需要増加の気配

二子玉川はこれまで「セレブが集うハイセンスな街」のブランドイメージから、40代以上の中高年層が多い街の印象がありました。ところが二子玉川ライズ全面開業の効果もあるのか、最近は若いファミリー層の転入が増えてきたといわれます。実際、各種「住みたい街」調査でも若いファミリー層の人気が高まっているようです。

都内の東急田園都市線沿線の中古マンション相場は、10年以上前までは「沿線の差がほとんどない。都心までの乗車時間に大差がなく、どの駅周辺の街も中高年層+高級イメージの金太郎飴状態だから」(不動産業界関係者)と言われてきました。
このため、従来の賃貸マンションも「駅の近くで狭めの物件か、駅から遠くて広めの物件か」の二者択一状態でした。また「二子玉川なら分譲マンション」の認識が強く、需要が少ないためか賃貸マンションの供給が少なく、駅近も駅から距離がある物件も築年数20年以上の老朽マンションが目立っていました。
それが二子玉川ライズ効果により一変。最近はワンルーム・1DKクラスの賃貸マンションも次々と開発され、二子玉川は若者から高齢者まで多世代が共生するマンション環境が整いつつあります。

不動産投資情報サイト「HOME‘S」の調査によれば、二子玉川駅周辺のマンション、アパート、戸建て住宅全般の平均家賃相場は7.4万円。近隣の用賀駅周辺(8.2万円)、桜新町駅周辺(8.0万円)より若干安くなっています。しかし「今後は転入者の増加が予想されているので、家賃相場も上昇の可能性が高い」(不動産業界関係者)と見られています。 賃貸物件の平均利回りは6.8%で、賃貸マンション入居者の間取りニーズはワンルームマンションː47.9%、1LDK/2DKː23.7%、2LDK/3DKː18.0%、3LDKː8.3%、その他ː2.1%となっています。この間取りニーズからも、単身者からファミリーまで幅広い賃貸マンションニーズがうかがえます。

一方、間取りタイプ別家賃相場は、駅から徒歩10分以内の物件はワンルームマンションː7.0万円、1DKː8.8万円、1LDKː12.6万円、2DKː12.3万円、2LDKː16.3万円、3LDKː26.3万円などとなっています。同10分以上の物件はワンルームマンションː7.0万円、1DKː8.6万円、1LDKː12.7万円、2DKː10.0万円、2LDKː14.8万円、3LDKː17.5万円などとなっています。

二子玉川駅から徒歩10分以上のファミリー向け物件は借り手にとっては手頃価格といえ、渋谷まで電車で約11分という立地条件を考えると今後は需要がかなり高まりそうです。2015年の再開発プロジェクト完成により、周辺の溝の口地区では前年からの地価上昇率が6.6%と、都内の平均上昇率1.7%と比べて大きな上昇を示しました。また駅に乗り入れている東急大井町線は、沿線の地価上昇で注目を集める路線です。常に高い人気を誇る東急田園都市線と使い分けることができるため、今後も高い利便性が人気を下支えすることでしょう。

このように注目を集める二子玉川エリアでこそ、金融工学に沿ったポートフォリオ設計と投資戦略が資産の最大化に大きく寄与します。5年後、10年後を見据えた投資展開を構築してから臨むことが重要といえるでしょう。