国交省、中古住宅診断義務化で宅建業法改正案提出 法改正で優良中古住宅の流通を促進

時事通信など複数メディアは2016年1月10日、「国土交通省が中古住宅の診断を義務化するための宅建業法(宅地建物取引業法)の一部改正案を今国会に提出」と報じました。 それによると、「国土交通省は中古住宅を安心して売買できるよう、専門家が家屋の傷み具合を調べる住宅診断(ホームインスペクション)を促進する方針を決めた。売買の仲介契約時に、住宅診断を行うかどうかを売主や買主に確認するよう不動産仲介業者に義務付ける。今国会に宅地建物取引業法の改正案を提出、2018年の施行を目指す」というもの。 同業法一部改正案は、中古住宅の売買仲介契約書などの重説(重要事項説明)の中に売主・買主双方の住宅診断の有無を記載する項目を設けることを不動産会社に義務付けるのが柱だといわれています。 売主の同意を得て実施した住宅診断の結果は、売買仲介契約前に不動産会社が重説の中で買主に行う模様です。 また最終的に売買契約を結ぶ際には、中古住宅購入後のトラブルを回避するため、家屋の基礎や外壁などの状態を売主と買主の双方が確認し、確認事項を契約書に明記する項目も改正案の中に盛り込んだようです。 同業法一部改正により、住宅品質が担保された中古住宅の供給が増えれば買主の選択の幅が広がり、それだけ中古住宅流通が活性化するのではとされています。


法改正で期待される現行ガイドライン改訂

住宅診断とは「建物検査」とも呼ばれ、住宅の設計・施工に詳しい建築士などが住宅劣化状況などを検査し、不具合の有無、補修すべき個所と時期などを第三者の立場で判断するサービスのこと。

住宅診断サービスは欧米では古くから普及していましたが、わが国で住宅診断サービスが始まったのは2000年頃からといわれています。
この頃から住宅診断サービス事業に参入する検査会社、建築事務所などが現れましたが、それも欠陥住宅を購入してしまった消費者からの検査依頼を受け付ける程度で、住宅診断サービスを専門的に提供する会社はなかったといわれています。
ところが2006年頃から、購入前の住宅に対して住宅診断サービスを利用する消費者が増え始め、専門的に住宅診断サービス事業を行う会社が増えていったといわれています。
2008年には民間団体の「日本ホームインスペクターズ協会」が設立され、「公認ホームインスペクター(住宅診断士)」という民間資格を作りました。以降、同様の資格を作る民間団体が増え、消費者にとってはどの団体の資格を持っている会社の住宅診断サービスを利用すれば良いのか、かえって分かりにくい状況になっているともいわれています。

また住宅診断サービスは目視検査を基本としますが、検査基準(検査項目や検査方法)と検査員の技術力は住宅診断サービス会社(インスペクター)ごとにばらばらでした。
そこで国土交通省は、中古住宅の売買を促進するためには、中古住宅の住宅診断サービスに対する消費者の信頼の確保と、円滑な普及を図る必要があり、それには中古住宅の住宅診断基準を住宅診断サービス会社間で共通化する必要があるとの考えから、共通化指針として「既存住宅インスペクション・ガイドライン」を策定、2013年6月に発表しました。

しかしガイドラインは、「検査内容として必要十分なものを示すものではなく、適正な検査実施となるよう住宅診断サービス会社が共通して実施することが望ましいと考えられる最小限の内容を示す」(国土交通省)としているため、「基礎的なインスペクション」(一次的なインスペクション)として、「目視を中心に一般的な計測器を用いた計測、触診・打診による非破壊検査」という最低レベルの指針を示しているだけです。
耐震検査など、破壊検査を伴う高レベルの検査は「二次的なインスペクション」として、ガイドラインの対象にはしていません。

そこでガイドラインの検査項目は、検査対象部位ごとに次のような劣化状況の有無確認を基本にしています。

● 構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの
(例)蟻害、腐朽・腐食や傾斜、躯体のひび割れ・欠損等
● 雨漏り・水漏れが発生している、または発生する可能性が高いもの
(例)雨漏りや漏水等
● 設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの
(例)給排水管の漏れや詰まり等

このように、ガイドラインに基づく住宅診断サービスの検査基準はレベルが低いため、不動産業界関係者の中からは「中古住宅の老朽化判定や品質確保の実効性が低い」との声も聞かれます。
そうした状況から「今回の中古住宅診断義務化の法改正においては、国土交通省がガイドラインをどこまで実効性の高い内容に改訂するか」(不動産業界関係者)が注目されているようです。


診断義務化で中古住宅投資に新潮流の可能性も

わが国では中古住宅のデータベースが未整備で、中古住宅の適正な評価基準も未整備です。これが築20年を越えると建物の資産価値がほぼゼロになる要因といわれています。
これがまた、空き家率13.5%の原因といわれています。
住宅取引全体に占める中古住宅取引比率も1割前後でしかありません。対して、中古住宅のデータベースが整備され、高レベルの中古住宅診断サービスが普及している欧米では、住宅取引全体に占める中古住宅取引比率は7~9割といわれています。

国土交通省の「日米の住宅投資額累計と住宅資産額の比較」によれば、米国の場合は住宅投資額累計13.7兆ドルに対して住宅資産額は14.0兆ドル。住宅資産額、すなわち中古住宅ストック額が住宅投資額を上回っています。これが活発な中古住宅取引の背景だといえます。
ところがわが国の場合は、住宅投資額累計862.1兆円に対して住宅資産額は343.8兆円しかなく、住宅投資額の518.3兆円が無駄遣い同然に消滅しています。
こうしたわが国の住宅投資の無駄を解消する上でも、中古住宅診断サービスの普及は喫緊の課題といわれています。

中古住宅診断サービスが普及し、中古住宅の老朽化状況が適正に判定され、その住宅性能も適正に評価されるようになれば「住宅性能に欠陥はないのに、外壁にちょっとしたひび割れがあるなどの理由で塩漬けになっていた物件も売れるようになる」(不動産業界関係者)など、中古住宅が飛躍的に流通する可能性が高まるのではとみられています。

それだけではありません。住宅性能が良好に保たれた中古住宅は、それが例え築古物件であっても高価格で取引され、そうでない中古住宅は築浅物件でも低価格で取引されるなど、取引価格の適正化、物件状態による取引額の差別化がおのずとなされるだろうと予測されています。
そうなれば中古住宅への投資判断が迅速化し、中古住宅投資にも弾みがつくとみられています。

また取引価格の適正化は、中古住宅流通市場の「高性能高価格物件と低性能低価格物件の二極化を促す」との観測もあり、それは「潜在需要の掘り起こしにつながる」とみられています。
なぜかと言えば、中古住宅の性能が客観的に検査・評価され、高価格物件と低価格物件の色分けが適正に行われれば、それまで「住んでみなければ分からない中古住宅」に見向きもしなかった消費者層が安心して低価格物件を買うようになるからです。
すると、現在は若者層の一部にみられる「マイハウス作り」(低価格中古物件を自分の思い通りにリノベーション・リフォームを施す購入トレンド)を楽しむ消費者の拡大も予想されます。
マイハウス作りが潮流化すれば、マイハウス作りをターゲットにした新たな投資戦略開発も考えられます。

こうしてみると今回の法改正は今後、中古住宅投資においても大きな影響を及ぼしそうです。