信用保証制度の見直し

経済産業省が信用保証制度の見直しを始めました。2015年12月12日付けの複数メディアの報道によると、「経済産業省は10日、信用保証制度の見直し方針をまとめ、作業部会に示した。創業間もない中小企業の債務保証率は現状の原則8割を維持する一方、経営が軌道に乗った企業の債務保証率は段階的に現状より引き下げる見通し」というもの。金融関係者はもとより、個人投資家が不動産投資の資金調達をする際にも利用していることから、不動産投資関係者の間でも成り行きが注目されています。


債務の8割を国が返済保証する制度

信用保証制度とは、中小・零細企業や自営業者(以下、中小企業)が金融機関から融資を受ける際、信用保証協会がその企業から保証料を徴収し、その企業の債務保証をする制度。債務返済が不能となった場合は信用保証協会が代位弁済(※)します。信用保証協会は日本政策金融公庫の「信用保険」に再保険を掛けているため、信用保証協会が代位弁済で生じた損失は最終的には国の資金で穴埋めされる仕組みになっています。

※代位弁済:金融機関から借り入れた信用保証付きの債務が返済不能となった場合、信用保証協会が債務者にかわって金融機関に借入残高を支払うこと。
信用保証協会とは、中小企業の資金繰りの円滑化を目的に制定された「信用保証協会法(1953年施行)」によって設立された認可法人です。
中小企業が資金借入をしようとする場合は一般的に貸倒リスクが大企業に比べて大きいため、借入ができなかったり、不利な借入条を課せられたりするケースが少なくありません。
そこで中小企業の信用力を補完し、中小企業がスムーズに資金調達をできるよう、中小企業が金融機関から資金借入をする際に金融機関に対してその企業の債務保証をするのが信用保証協会の役割です。
信用保証協会が債務返済不能になった企業の代位弁済をした際は、日本政策金融公庫の信用保険から代位弁済額の原則8割が支払われます。
信用保証協会は各都道府県に1協会が設立されています。このほかに、横浜市、川崎市、名古屋市、岐阜市の4市にはその市域内企業を信用保証対象とする信用保証協会があり、全国で51の信用保証協会があります。

一口に信用保証制度と言っても、「流動資産担保融資保証制度」「小口零細企業保証制度」「経営力強化保証制度」などさまざまな制度があり、それぞれ補償限度額や保証期間が異なります。例えば中小企業の経営力強化を目的とした経営力強化保証制度の場合、保証限度額は2億8000万円、保証期間は運転資金5年以内、設備投資資金7年以内などとなっています。


赤字垂れ流しに財務省が見直しの突き上げ

中小企業数は全国で約385万社あり、企業全体の99.7%を占めています。そのうちの4割近くに上る146万社が信用保証制度を利用しており、公的金融機関の中では最大の利用率となっています。このため、信用保証制度の見直しは、金融機関の中小企業向け融資審査が厳しくなるなど大きな影響を与えると見られています。

それにもかかわらず経済産業省が制度見直しに入ったのは、信用保証協会が再保険を掛けている日本政策金融公庫の信用保険事業収支が、毎年赤字垂れ流しを続けているのが理由とのこと。このため、財政健全化を急ぐ財務省からの突き上げで、経済産業省の制度見直し論議がスタートしたと言われています。

かつて信用保証協会は金融機関に対して100%の債務保証をしていました。それが2007年10月の「責任共有制度」(信用保証協会と金融機関が貸出責任を共有し、中小企業の融資に対して適切な支援を行うことを目的とした制度)の導入により、信用保証協会の債務保証は原則8割、残りの債務を金融機関が負担する現行の仕組みに改められました。
責任共有制度の導入が論議された際、信用保証協会と金融機関で50%ずつ負担するのが当初の案でした。しかし、中小企業の資金繰りへの影響や負担拡大に対する金融機関の反対もあり、現行の負担比率で論議が決着した経緯があります。
それが再度の制度見直しで、信用保証協会の債務保証率が現行より引き下げられ、金融機関の負担が拡大する可能性が高まりました。


迫られる不動産個人投資家の資金調達戦略転換

これを金融機関側はどう見ているのでしょうか。

例えば中小企業融資の約40%を担っている全国地方銀行協会は2015年11月30日に「信用保証制度の見直しについて」と題する文書を発表。その中で「企業のライフステージなどに応じた保証割合を設定するのであれば、零細企業、創業期の企業などの資金調達に支障を来すことがないよう配慮すべきである」と述べるにとどめており、経済産業省の見直し方針におおむね同調する姿勢を見せています。見直しによる負担拡大にそれほどの抵抗感はないようです。

銀行融資コンサルタントの瀬野正博氏は、自身のホームページで「今まで金融機関は特に小規模企業への融資には信用保証協会に過度に依存しており、企業側も自身の経営に多少の問題があっても信用保証協会が債務保証をしてくれるため、金融機関から資金調達できる環境にあった。いくら中小企業を支援するためとは言え、毎年赤字を垂れ流している信用保証制度は、金融機関の負担割合を徐々に拡大させてゆく見直し論議になるのは避けられない」と述べています。
金融関係の識者の間には同様の意見が多く、中には「中小企業経営者に求められるのは信用保証なしでも資金借入ができる企業体質作り」と指摘する厳しい意見もあります。

一方、不動産投資関係者の間からも「これまでは信用保証制度を利用すれば、債務自己保証では断られたプロパー融資や長期融資を受けられるメリットがあった。
このため、資金調達を安易に信用保証に頼る傾向があった。これからは信用保証に頼らなくても資金調達ができる財務体質に改善する必要がある」との意見が聞かれます。

制度見直し論議の行方によっては、不動産個人投資家も信用保証に頼らない財務体質の構築と資金調達戦略の転換に迫られ、それを支援するOWNER’Sなど専門家集団の役割がますます大きくなりそうです。