民泊ビジネスが狙っている意外なターゲット

2015年は「インバウンド」がクローズアップされました。インバウンドの中で最も注目を浴びたのが旅行業界の「民泊ビジネス」だといえます。この民泊ビジネスを追ってゆくと、不動産投資との深いつながりが見えてきます。


旅館業法の基準緩和で今春にも民泊ビジネス解禁

これまでグレーゾーンだった民泊ビジネスについて、厚生労働省と観光庁の有識者会議は2016年1月25日、民泊施設を現行旅館業法の「簡易宿所」の一つに位置づけるため、同法の面積に関する基準やフロント設置義務の要件緩和を決定。同法に関する政令と通知を改正し、2016年4月に実施する方針を固めました。これにより、民泊ビジネスは今春から法的に解禁される見通しになりました。

また日本経済新聞など複数メディアの報道によると、国土交通省と厚生労働省は上述の決定の同日、民泊ビジネス解禁に向けた対策案をまとめました。
それによると、国土交通・厚生労働両省は民泊ビジネス事業者が簡易宿所の許可を取りやすくするため、延べ床面積33平米以上とする簡易宿所の面積基準を緩和し、民泊施設に限り延べ床面積ではなく1人当たりの面積の基準を設け、「ワンルームマンションなどでも許可を取りやすくする」としています。


民泊ビジネス解禁に厳しい風当たりも

昨年は自治体で民泊ビジネス条例化の動きが活発化し、今年は民泊ビジネス解禁に向けた法整備の動きが加速しています。これを追い風に不動産業界では「業界の新業態になる」のではとの期待も高まっています。

ところが、現実は分譲マンションなどで「民泊禁止」を打ち出すなど、解禁ムードと逆の動きもみられます。

例えば東京新聞では以下のように報じています。

「都内の分譲マンションで、管理組合側は『民泊で不特定多数が出入りすればセキュリティーが守られなくなる』、『資産価値が下がる』と危機感を募らせる。
『区分所有者等はその専有部分を利用して旅館業を営んではなりません』。足立区のとあるマンションでは総会で管理規約を変更し、民泊を禁止する条文を追加する方針だ。『いろいろな国の人が日替わりで出入りする状況は、ファミリータイプの分譲マンションになじまない』と同マンション管理組合法人は強調する」(2016年1月28日付)。

また産経新聞は
「昨年11月27日、厚労省と観光庁が開いた有識者会議「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」の初会合で全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会会長が『なし崩しの規制緩和には断固反対だ。まずは国家戦略特区での効果を十分に検証するべきだ』と語気を強めた。
業界では設備投資や運営コストが低い民泊が広がれば宿泊客を奪われるとの危機感が強い。

議論が本格化するにつれ、政府内で見解の食い違いや温度差も目立ち始めている。
例えばマンションを使った民泊営業とマンション管理規約との関係だ。
一般的な規約には『専有部分を専ら住宅として使用する』との趣旨の条項がある。国土交通省は当初、民泊は『住宅使用』に当たらないと判断。民泊営業の際は管理規約の改定を推奨する通達を昨年12月に全国自治体に出す予定だった。
ところが国家戦略特区ワーキンググループの一部民間委員から異論が飛び出した。特区での民泊は7日間以上の滞在が条件であることから『住宅使用に当たり、規約改定は必要ない』というのだ。
このため国交省は通達を延期。特区の東京都大田区では今月中旬を目指していた民泊事業者の認定審査基準作りが遅れている」(2016年1月27日付)などと、民泊ビジネス解禁に向けた厳しい風当たりを報じています(記事内容は両紙とも概略)。


民泊ビジネスをするなら出張族を狙え

訪日外国人旅行者を対象にした民泊ビジネス解禁が批判にさらされている一方で、解禁に対する期待も高まっています。
それは出張族の受け入れ宿泊施設としてのビジネスチャンスへの期待です。出張先のビジネスホテルを予約できず、途方に暮れる「ビジネスホテル難民」が急増しているからです。

観光庁が2015年6月に発表した『観光白書平成27年版』によれば、2014年の訪日外国人旅行者数は前年比29.4%増の1341万人で、2年連続で過去最高を更新しました。
その影響で全国のホテル・旅館の稼働率が上昇し、特に東京23区内や大阪市内のホテル・旅館の稼働率は81%を超えました。

これに関し、J-CASTニュースは 「(稼働率の上昇により)ホテル代も『高騰』している。都内に限って言えば、夜に空き部屋をディスカウントしていたが、そうしたことも影を潜めた。 日経新聞の15年2月13日付けの記事によれば、全国600ホテルを対象に集計した14年の平均客室単価は前年を8.2%上回った。都内では帝国ホテルが同8.9%上昇し2008年以来となる3万円台を回復した。 楽天トラベルによれば、東京や大阪は宿泊客が増えたことによって従来なら価格を下げなければ売れなかった部屋が『適正な価格』で売れるようになり、高単価傾向が続いている。 また、早期に予約しなければ宿泊できなくなってしまったという。ビジネスホテルなどでも1週間前予約が普通になっていて、盆や年末年始だと半年前に予約しなければならない厳しい状態だと説明した」(2015年6月10日付)
と報じています。

ビジネスホテルの予約が取りにくくなったのは、「都市ホテルの予約が取れなかった訪日外国人旅行者が、宿泊料も安いビジネスホテルにどっと流れ込んできた結果。特にアジアからの観光客がビジネスホテルを独占しているような状態」(旅行業界関係者)といわれています。
アジアからの観光客の大半は、買い物が訪日旅行の目的だといわれています。
このため、「交通アクセスの便利な都心部のビジネスホテルに泊まり、都心部の商業施設で爆買いしている」(前出関係者)ともいわれています。

その煽りを国内の出張族が受けている形ですが、出張族の悩みが深刻なのは今後もビジネスホテル不足が続きそうなことです。 旅行代理店大手のJTBが2015年12月に発表した『2016年の旅行動向見通し』によれば、2015年の訪日外国人旅行者は前年比47.3%増の1975万人(推定)、2016年は同19.0%増の2350万人の見通しとなっています。

その一方で「一部のビジネスホテル大手を除きビジネスホテル業界に増築など客室数拡大の動きは見られない」と日経ビジネスは報じています(2015年9月15日付)。
景気の影響を受けやすいビジネスホテル業界は、過去に何度も景気変動による客室稼働率が一気に落ち込む苦い経験をしてきたことから、継続性が期待できない訪日外国人旅行者増加の予測程度では、新規投資に踏み切れないのが原因ではとみられています。

こうした状況を踏まえ、不動産投資関係者は「民泊ビジネスは訪日外国人旅行者ではなく出張族の受け皿になれる。そしてこれをチャンスに出張族の満足度を高めれば、今の訪日外国人旅行者ブームが去った後も、出張族向け民泊施設として事業継続ができる」と期待しています。
この関係者が出張族向け民泊施設として挙げているのが、ワンルームマンションとウィークリーマンションです。
不特定多数の人間の出入りが日常的なこれら両タイプなら、民泊施設にしてもマンション入居者や近隣住民とのトラブルは問題視されるほどには発生しない。また、宿泊者が同じ日本人なので、外国人のような治安問題やマナー問題が発生するリスクも少ない、とその理由を挙げています。

ちょっと視点を変えれば、民泊ビジネスは不動産投資の新しいビジネスチャンスになる可能性が高いようです。