国交省、住宅リフォーム市場12兆円へ拡大

国土交通省が策定した「新住生活基本計画」が3月18日に閣議決定されました。同計画の中には2025年までに住宅リフォームの市場規模を2013年の7兆円から12兆円へ拡大する目標が盛り込まれています。「国の支援政策は市場ニーズと乖離していることが多い」と言われがちですが、こと新住生活基本計画に関しては不動産業界関係者も驚く展開を見せようとしています。


民間の市場予測と大きく乖離した国交省の目標設定

新住生活基本計画は中古住宅市場を「住宅ストック活用型市場」へ転換するための長期計画です。
国土交通省は同計画の中で8つの目標を設定しています。このうち「目標5 建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新」の中で、リフォーム市場の規模を2013年の7兆円から12兆円へ拡大する目標を設定しています。

では、民間調査会社の市場予測はどうなっているのでしょうか。
例えば、矢野経済研究所は『住宅リフォーム市場に関する調査結果2015』(2015年8月発表)の中で、

●2015年の住宅リフォーム市場規模は、大きな需要変動要因はないと考えられ、6兆6,460億円(前年比0.8%減)とほぼ横這いに推移。住宅リフォームの各分野が苦戦する中、経年劣化による実需である「設備修繕・維持関連費」分野は底堅く推移するとみられる。
●2025年の住宅リフォーム市場規模は2014年比約11%増の7.4兆円、2030年は同約10%増の7.3兆円と予測する。長期的には世帯数の減少が影響し、縮小基調に向かうと予測する。
――などと分析しています。

野村総合研究所は『2015-2030年までの新設住宅着工戸数およびリフォーム市場規模予測』(2015年6月発表)で、もっと厳しい見方をしています。
この中で同社は「リフォーム市場規模は6兆円台/年で推移」と予測、「新設住宅着工戸数の減少が見込まれる一方、リフォーム市場は住宅の長寿命化などに伴い拡大することが期待されている。しかし、現状の趨勢が続いた場合は市場拡大が難しく、リフォーム市場規模は2030年まで年間6兆円台の横這いで推移すると予測される」と分析しています。

このように、国土交通省が新住生活基本計画で設定した住宅リフォーム市場拡大目標は、民間調査会社の予測と大きく乖離しています。では、同省は何を根拠として強気の目標設定をしたのでしょう?


変わる消費者のリフォーム意識、それを後押しするガイドライン

国土交通省の目標設定の根拠と推測されるのが、同省が新たに策定し、2014年3月に発表した「個人住宅の賃貸借ガイドライン」です。これは「貸主が修繕を行わず現状有姿(現在の状況)のまま賃貸し、賃料を相場より安く設定し、借主が自費で修繕やDIY(日曜大工)を行う借主負担型の賃貸借契約の指針」です。

ガイドラインは賃貸借契約を「Aタイプ 一般型」、「Bタイプ 事業者借上型」、「C-1タイプ 借主負担DIY型(現状有姿)」、「C-2タイプ 借主負担DIY型(一部要修繕)の4形態に分類・提示しています。このうちA・Bタイプは従来の契約形態で、
●賃貸住宅の必要な修繕・設備更新は原則的に貸主負担
●借主のDIYは原則禁止
●退去時の原状回復は原則的に借主負担
●家賃設定は市場相場並み
――などとしています。

一方、C-1・2型は新たに設けた契約形態で、
●賃貸住宅の必要な修繕・設備更新の貸主負担は原則的に免除。借主負担で実施
●借主負担のDIYを認める
●家賃は市場相場より安く設定する
――などとしています。

ガイドライン策定の目的について、国土交通省関係者は「賃貸住宅の敷居を下げ、貸し借りしやすい環境を整備したい。敷居が下がって好みの賃貸住宅に住みやすくなれば、持ち家住宅にこだわる必要もなくなる。そうなれば賃貸住宅の流通が活性化し、『家は自分で直して快適に暮らす』という文化の定着も期待できる」と述べています。

ガイドラインについては不動産市場の動向とも歩調があっているようで、リクルート住まいカンパニーが2014年6月に発表した『賃貸住宅におけるDIY意向調査』によると、
●現賃貸住宅居住者において持家志向は53.1%。賃貸志向は35.6%
●現在居住している賃貸住宅で「リフォームをしたことがある」と答えたのは4.2%、「リフォームをしたいと思ったが諦めた」は18.8%、実施経験層と諦め層を合わせると23.0%のリフォーム意向があり、賃貸住宅リフォームの潜在ニーズは結構高い
●国土交通省が2014年3月に発表したガイドラインで提示した「借主負担DIY型」賃貸借契約利用意向は46.9%と半数近いニーズがある
――などとなっています。

不動産業界関係者は「借主負担DIY型契約なら、老朽化・不具合の賃貸住宅を安く借りられる上、DIYで自分の好みの家に改造できる魅力が、高い利用意向となって表れている」と分析しています。


今どきのリフォームはパーティ気分で楽しくDIY

借主負担DIY型賃貸借契約の認知度が急速に高まる中、今度はリクルートホールディングスが2014年12月に発表した『2015年のトレンド予測』が不動産業界内で昨年話題になりました。
これは住まい、飲食など8領域のトレンドを予測したものですが、同社は住まい領域では「リノベパーティ」が2015年のトレンドになると予測したのです。

同社はリノベパーティを「賃貸住宅のリフォーム工事は自分たちで行い、多少の失敗はご愛嬌。プロのような完璧さより『作るプロセス』を重視し、友達や家族(パーティ)と『パーティ感覚』で楽しむというリフォームスタイル。パーティはフェイスブックで募集し、『作るプロセスと結果』 もフェイスブックで共有・拡散する」と説明しています。
早い話が、賃貸住宅リフォームをきっかけにした新しいコミュニケーションスタイルと言えます。

同社はこのトレンド予測の中で「2014年の調査によれば、『リノベーション』という言葉の認知度は96%超にまでなっている。また『Googleトレンド』の検索ボリュームでは、新築マンションとリノベーションは、今や拮抗状態になっている。リノベーションはこれまで、雑誌などで紹介されたプロ仕上げの『かっこいいデザイン』で需要を牽引してきたが、そこに新しい潮流が生まれつつある。2015年は賃貸住宅で愛着ある空間を友達や家族と共に作り上げる『リノベパーティ』が賃貸市場とリノベーション市場を楽しく進化させていく」と分析しています。

実際、不動産情報サイト「SUUMO」内の「借主リフォーム可」賃貸物件は、2013年1月現在はゼロ件に等しい状態でしたが、2013年9月では5000件に増加、その後は急上昇し、2014年10月現在は4万件になり、僅か1年1カ月で8倍に増加しています。


新潮流に乗って拡大する住宅リフォーム市場

こうしてみると、国土交通省の住宅リフォーム市場拡大目標と民間調査会社の予測との乖離の理由が見えてきます。
民間会社の予測は現状の需要分析が予測の根拠になっています。対して国土交通省は20~30代を中心としたリフォーム潜在需要と、それを顕在化するための各種支援政策を根拠に目標設定を行っているようです。
中古の賃貸住宅を借りるにしろ持ち家を購入するにしろ、各種市場調査からそのリフォームニーズは強く、リフォーム形態も多様化している傾向が明らかと言えます。

こうした住宅リフォーム市場の新しい潮流の中で、借主負担DIY型賃貸借契約は、建物が老朽化して空室率が高くなってしまった賃貸マンションを、オーナーが修繕などの追加投資をしないで満室経営を実現する新しい入居者募集策になる可能性を秘めていると言えるでしょう。